4. デザイナーからのメッセージ
「ヒューマノイド・デザインの美学」 山中俊治

ヒューマノイドを作る行為は芸術に近い。肖像画を描き、彫像を作るアーティストも、ヒューマノイドを作る研究者も、人とは何かという問いかけに対する答えを追求しているという点で共通した動機を持っている。
20世紀、人類は、美しい機械のあり方を追求してきた。合金や樹脂を始めとする新しい素材を自在に加工する技術によって、自然界にはない美意識を形成した事は、我々の文化的な財産である。そうした機械技術の頂点として、我々は今、人に似せた機械、ヒューマノイドを作ろうとしている。
肖像画や、彫刻の美しさが、人にそっくりである事だけではないのと同様に、ヒューマノイドの美しさが、ひとの美しさと同じである必要はないのではないか。外観を人に似せようとするあまり、我々は機械仕掛けのぬいぐるみを作ってはいないか。機械の持つ合理性を基礎として、機能的な美意識をヒトノカタチの中に持ち込む事によって新しい機械の生命のオリジナルな美しさを追求できないだろうか。
先に、日本科学未来館で開催されたロボット・ミーム展において、私は、Cyclopsという人型インタラクティブ・マシンをデザインした。ここで私が提示したかったものは、インタフェースとしての柔らかい微妙な姿勢の変化や視線の動きだが、同時に私が試みたのは、美しい身体構造の提示であった。「美しい身体構造の提示」。この考え方はmorph 3にも継承される。
morph 3はすでにそのアクロバティックなアクションで高い評価を得ている。デザイナーである私がまず手をつけた事は、その身体構造の最適化、合理化によって、古田氏らの基本設計が本来持っている構造上の美しさを引き出すことである。様々な部品を統合し、製作を容易にしつつ、軽量化を実現する。プロダクトデザイナーである私が確信していた事は、構造を最適化し、形状的に洗練させて行けば、おのずと美しい身体に行き当たるはずだという、ある意味オーソドックスな機能美の概念である。
かつて、乗用車や航空機は美意識を持ったエンジニア達によって設計と同時にデザインされていた。乗用車とは何かを探りながらのデザインであればこそ、理想的なデザインが行われた。ヒューマノイドのデザインは、ようやく今からスタートする。私達は新しい人工生命が、人に似たものになるべきかどうかさえ、迷いながら作っている。であればこそmorph 3の身体デザインで試みられたエンジニアリングと美意識の再融合が、美しい人工生命が生まれ立つ未来への一歩となる事を願うものである。